大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

金沢地方裁判所 昭和24年(ワ)294号 判決

原告 報国土地株式会社

被告 国

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「別紙物件目録記載の土地に対する自作農創設特別措置法第三条に基く買収の対価はこれを別表(一)記載の額に増額する。被告は原告に対し金百十七万二千八百九十七円四十九銭並びにこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

(一)  原告会社は昭和十二年二月十八日、(1)山林、保安林の拓植事業、(2)土地、建物の取得、利用、賃貸、(3)資金の融通、(4)種苗の育成、(5)農業の経営、助成、(6)前各号に関連する一切の事業を目的として設立せられた株式会社である。

(二)  別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)はもと原告の所有に属していたが、昭和十九年に旧陸軍において買収するところとなつた。しかし原告は昭和二十四年六月政府より戦時補償特別措置法第六十条に基いてその返還を受けることゝなり、同月八日右代金を支払つて再び本件土地の所有権を取得し、同年七月二十一日その所有権移転登記手続を了した。

(三)  ところで訴外石川県農地委員会は同月二日自作農創設特別措置法第三十条第一項に基き本件土地について未墾地買収計画を樹立し、訴外石川県知事は右買収計画に基き同年十月三日附で本件土地を別表(二)記載の現況地目、地積並びに対価により買収し原告は同月二十五日右買収令書の交付を受けた。

(四)  しかしながら右買収の対価は真実を無視し著しく低廉であつて不当である。(1)本件土地の買収当時における現況は別表(一)記載のごとく畑地、原野、山林、宅地となつており、(2)その対価は(イ)畑地は法定基準価格により一反当り金三百十二円(この点被告の買収対価の単価を相当とする)、(ロ)原野及び山林(立木が生立していない素地として)はいずれも畑地の四十五パーセント、即ち一反当り金百四十円四十銭、(ハ)宅地は買収計画樹立当時の時価金三千円とするのが相当であるから、本件土地の買収対価は別表(一)記載の額が適正である。

(五)  そこで原告は本件土地の前記買収対価を不服とし自作農創設特別措置法第三十四条、第十四条に基き被告に対し、本件土地の買収対価を別表(一)記載の額に増額し、右増額買収対価金百十七万二千八百九十七円四十九銭並びにこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及ぶ。

(立証省略)

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

(一)  原告主張中、(一)乃至(三)の各事実並びに(四)の中、畑地の対価が一反当り金三百十二円が相当であることはいずれも認めるがその余の事実はすべてこれを否認する。

(二)  本件土地の公簿上の地目はいずれも保安林であるが、買収当時の現況は畑地、原野及び山林となつており、宅地は存せず、山林は次に述べる理由で原野と看做して買収したから別表(二)記載のとおりであつた。

(三)  訴外石川県農地委員会及び同石川県知事は、昭和十九年八月三十日旧陸軍が本件土地を買収した際、原告、旧陸軍、内灘村の三者合同調査の上作成した土地調書に記載の現況により買収計画を樹立し、又これに基いて買収したものである。本件土地は旧陸軍において買収以来軍用地又は政府所有地として何人も無断で利用できなかつたため、本件買収当時の現況は旧陸軍の買収当時と何等の変化するところもなかつた。

(四)  しかして旧陸軍の買収当時の本件土地の現況は別表(二)記載のように畑地と保安林(但し同表の原野を保安林と読替えるものとする)となつており、右にいう保安林には海岸砂防の保安林即ち立木の生立する山林と保安林予定地即ち立木の生立しない原野を包含する。ところで本件土地買収においては、山林は立木を別途買収することとしたためこれを山林として買収せず、立木のない素地即ち原野として買収したから右保安林はすべて原野と看做される。

(五)  訴外石川県知事は本件土地を別表(二)記載の対価により買収したものであるが、右対価は、(イ)畑地は自作農創設特別措置法第六条に基き本件土地近傍類似の畑の賃貸価格金六円五十銭に四十八を乗じた金三百十二円、(ロ)原野は同法第三十一条、同法施行令第二十五条に基き近傍の河北郡七塚町字白尾及び同郡宇ノ気町字大崎地区における類似の農地の時価即ち右農地の賃貸価格金四円二十銭に四十八を乗じた金二百一円六十銭に中央農地委員会議の定める率四十五パーセントを乗じた金九十円七十二銭をもつて計算の基礎としたものである。

(六)  従つて本件土地の買収対価は別表(二)記載の額が相当であつて、原告の本訴請求は失当として棄却を免れない。

(立証省略)

理由

本件土地がもと原告の所有に属していたが、昭和十九年に旧陸軍において買収するところとなつたこと、しかし原告が昭和二十四年六月政府より戦時補償特別措置法第六十条に基いてその返還を受けることとなり、同月八日右代金を支払つて再び本件土地の所有権を取得し、同年七月二十一日その所有権移転登記手続を了したこと、訴外石川県農地委員会が同月二日自作農創設特別措置法第三十条第一項に基き本件土地について未墾地買収計画を樹立し訴外石川県知事が右買収計画に基き同年十月三日附で本件土地を別表(二)記載の現況地目、地積並びに対価により買収し、原告が同月二十五日右買収令書の交付を受けたこと、以上の事実はいずれも当事者間に争がない。

原告は本件土地の買収当時における現況は別表(一)記載のごとく畑地、原野、山林、宅地となつていたと主張するが、成立に争のない甲第二号証の一乃至四の各記載、証人石川良保及び林一平の各証言並びに右証言によつて真正に成立したものと認めるべき甲第一号証の記載をもつては後掲各証拠に照して右主張事実を肯認する資料とすることができず、その他右事実を肯認するに足りる証拠は存しない。

成立について争いのない乙第二号証及び第四号証の各記載に証人横田維俊、中山又次郎及び西田与三郎の各証言並びに検証の結果を併せ考えると、本件土地の公簿上の地目がいずれも保安林であること、訴外石川県農地委員会及び石川県知事が昭和十九年八月三十日頃旧陸軍において本件土地を買収した際、原告、旧陸軍、内灘村の三者合同調査の上作成した土地調書に記載の現況により買収計画を樹立し、又これに基いて買収したこと、本件土地が旧陸軍において買収以来軍用地又は政府所有地として何人も無断で利用できなかつたため本件買収当時の現況は旧陸軍の買収当時と殆んど変化するところがなかつたこと、しかして旧陸軍の買収当時の本件土地の現況が別表(二)記載のように畑地と保安林(但し同表の原野を保安林と読替えるものとする)となつており、右にいう保安林には立木の生立する山林と立木の生立しない原野が包含されること、訴外石川県知事は本件土地の買収において山林は立木を別途買収することとしたためこれを山林として買収せず、立木のない素地即ち原野として買収したことをそれぞれ肯認することができ、しかして自作農創設特別措置法第三十条第一項、第三十一条、同法施行令第二十五条の規定よりすれば、山林を買収するに際り立木とその生立している素地を別個にそれぞれ買収し得ることが明らかである。してみれば本件土地買収手続上買収対価を定めるに際つては、その現況を別表(二)記載のごとく畑地と原野として取扱つても差支えないといわねばならない。

次に訴外石川県知事の定めた本件土地中畑地の買収対価が一反当り金三百十二円を相当とすることは原告の是認するところであるが、原告は本件土地中原野の買収対価一反当り金九十円七十二銭を不当とし金百四十円四十銭を相当とする旨主張するのでこの点についてみると、右原野の買収単価金九十円七十二銭が不当であり、原告主張の額が相当であると認めるべき資料がない。証人横田維俊の証言、前顕乙第二号証並びに成立について争のない乙第三号証の一、二の各記載によれば、訴外石川県農地委員会は自作農創設特別措置法第三十一条、同法施行令第二十五条に基き本件土地中、原野の対価を近傍の河北郡七塚町字白尾及び同郡宇ノ気町字大崎地区の類似の農地(賃貸価格等級五十八級)の時価即ち右農地の賃貸価格金四円二十銭に四十八を乗じた金二百一円六十銭に中央農地委員会議の定める率四十五パーセントを乗じて一反当り金九十円七十二銭と定めたこと、並びに訴外石川県知事は右訴外石川県農地委員会の定めた買収対価により本件土地を買収したことをそれぞれ認めることができる。(この認定に反する右証人の証言部分は措信しない。)

以上の通りであるから当裁判所は本件土地の原野の対価は右額をもつて相当であると認める。

そうすれば本件土地の買収対価は別表(二)記載の額をもつて相当であるものといわねばならない。従つて原告の本訴請求は理由がないこととなるから失当としてこれを棄却すべきものとする。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 観田七郎 柏木賢吉 吉田誠吾)

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例